市販のギターアンプについて考える
自作ギターアンプを作るという執念でいろいろいじってきましたが、 ここで少し休んで、他のメーカー品の回路をいろいろ見て行こうと思います。 回路図を比較しながら眺めていると、大きく2つの流れがあることに気づきました。
その1フェンダー系
フェンダーのギターアンプといいますと、僕の大好きなデラリバ・ ヴァイブロラックスリバーブ等クリーントーンのイメージが強いと思います。 フェンダー系のギターアンプ回路を参考にしているのは、メサ/ブギーと PEAVEYでした。ちょっと展開系で初期のマーシャルです。
フェンダー系のギターアンプ回路構成は、次のとおりです。
- 初段…12AX7増幅部
- 2段目…トーン+ボリューム
- 3段目…12AX7増幅部
- 4段目…12AT7位相反転ドライバ
- 5段目…6L6GC系のパワー管
リバーブ・トレモロは3段目/4段目あたりに挿入されます。 一方マーシャルでは、ボリュームの位置がちょっと違います。
- 初段…12AX7増幅部
- 2段目…ボリューム
- 3段目…12AX7増幅部+12AX7カソードフォロワー
- 4段目…トーン
- 5段目…12AX7位相反転ドライバ
- 6段目…EL34系のパワー管
ボリュームの位置がフェンダーに比べ使いやすくなっています。 歪ませた音をトーンで調整したい場合は、マーシャルの方が有利です。 フェンダー系のアンプは、トーンで調整した音がひずんでしまうといった感じです。
これを一歩進化させたのが、メサ/ブギーとなります。サスティーンを得るために 増幅段を増やしているそうですが、実際は歪みをコントロールしやすくなっています。
- 初段…12AX7増幅段
- 2段目…ボリューム1
- 3段目…12AX7増幅段
- 4段目…トーン+ボリューム2
- 5段目…12AX7増幅段
- 6段目…エフェクタセンド・リターン/リバーブ/グライコ等付属機能
- 7段目…12AX7増幅段
- 8段目…マスターボリューム
- 9段目…12AX7位相反転ドライバ
- 10段目…6L6GC等のパワー管
ここまでくると、多彩な付属機能やディストーション調整でかなり回路が複雑ですね。 フェンダー系の特徴は、歪みメインとなりがちな最近のアンプの傾向とは違い、 クリーントーンを意識して、出力トランスから位相反転ドライバに ネガティブフィードバック(NFB)を還しています。 このメリットは、ノイズ減・歪み減・パワー管のばらつき減です。 デメリットは、出力パワー減となります。大出力で思いっきり歪ませる目的ではない ことに気づきます。また、NFBで出力パワーが落ちてしまうので、出力段は 固定バイアス回路を使用しワット数を稼いでいます。
ちなみにHIWATTの400Wアンプでは、マーシャル系の回路構成ですが、 出力パワー管がKT88x6となっています。
その2VOX系
フェンダー系とまた違ったニュアンスで世界的に有名なアンプは、 VOX AC-30だと思います。フェンダー系との違いは、出力パワーにあります。
まず、フェンダー系のアンプで採用されていた固定バイアス方式の 出力パワー管グリッド電圧設定が、自己バイアス方式となっています。 自己バイアス方式は、固定バイアス方式と違い、出力管の特性がばらついても 自動で調整がかかる効果がありますので、バイアス調整が必要ありません。 デメリットとしては、出力パワーに制限がかかることです。
もう一つ重要な違いは、ネガティブフィードバックによる帰還を還していない 無帰還アンプになっています。帰還を還すことでアンプの音質は、 出力管がばらついてもある程度調整がかかるため統一することができますが、 無帰還アンプでは、出力管の特性が顕著に音質に影響するようで、 HiFiオーディオアンプマニアの人たちでは、意外と評判がいいようです。 アンプの構成は次のようになっています。
- 初段…12AX7増幅段
- 2段目…ボリューム
- 3段目…12AX7増幅段+カソードフォロワー
- 4段目…12AX7増幅段
- 5段目…12AX7位相反転ドライバ
- 6段目…EL84パワー管
シンプルな回路構成ですが、出力管の特徴を出すように構成してあり、 往年の名機の貫禄を感じます。この自己バイアス回路+無帰還アンプの形を 継承しているのが、Matchlessです。
Matchlessは上記VOXの回路を発展させており、次のような面白い回路構成を 取っています。
- 初段…12AX7増幅段
- 2段目…トーン
- 3段目…12AX7増幅段
- 4段目…ボリューム
- 5段目…12AX7位相反転ドライバ
- 6段目…マスターボリューム
- 7段目…EL84等のパワー管
マスターボリュームを位相反転した後にとっているのが面白いですね。 ただし、このマスターボリュームの値が小さいと、 ハイパスフィルターが形成されてしまいます。音に違いが出てくると思います。
その3その他
小さなアンプメーカーや最近のアンプなどの回路をすべて見たわけではないですが、 番外編としては、位相反転ドライバにPK分割回路を用いたものがあります。 この回路を使用しているのが、プリンストンリバーブとAmpegのアンプでした。
今までの位相反転ドライバは、ほぼカソード結合型(差動型、ムラード型ともいう) で、3極管二つで構成されていました。これは、位相反転ドライバでもゲインを稼げる ためと考えられます。PK分割型の位相反転ドライバですと、ゲインは1以下になり、 出力管とトランスのゲインをあわせても、ゲインが1以上になりません。
すなわち、前段の利得を増加される必要があり、Ampegでは、7199という 5極・3極複合管を用いてゲインを稼いでいます。僕の6BL8を使用したアンプも 同様ですが、この方式ですと真空管一つで足ります。また、PK分割型では、 出力側の振幅を大きくとれず、カソード結合型が主流になったと考えられます。
まとめ
市販の真空管を使用したアンプでは、回路的な新しいものはなく、 どちらかと言うとその構成、つまりどうやったら使い回しがいいか?いろいろなことが できるか?に知恵を絞ってある印象です。
真空管アンプは古い歴史があり、その真空管の仕様最適値はほぼ出つくしているので、 回路的にいじるところはないのでしょう。もしくは、音がいい!といわれている 先輩のアンプの回路を踏襲するため、回路的に変更をかけても、抵抗・コンデンサを ちょっと変える程度と思います。
僕が一番に思ったのが、12AX7の使用例の大変な多さです。真空管を製造している メーカーは、昔の設備の保守用かあるいはギターアンプ用に製造しています。 ギターアンプがなかったら、おそらく真空管が現在手に入ることがなかったのかなあと 考えると、ギターアンプに感謝ですね!!
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