Monkey Guitar Instruments Lab.

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KT88真空管アンプの作成(2006/10/1)

MGIL設立してちょうど一年になるのを機に、思い切って真空管アンプの作成に 挑戦します!!今までのエフェクターとはまた違い一からの挑戦となります。 自分の納得いくエフェクターペダルが出来てきたので、今度はこのエフェクターを 存分にならせる真空管アンプが欲しくなりました。

今回始めて作成する真空管アンプは、はじめて作るだけにいろいろ実験できるように 考えます。また、HiFiオーディオでいい音とさせている回路等も試して行きたいと 思います。

アンプの検討

最初に作りたいアンプのコンセプトを考えて行きます。真空管アンプの花形といえば、 やはり出力管です。今回は形を見て一発でほれ込んだKT88をパワー管に選定しました。 KT88といえば大出力アンプに使用されているようですが、僕自身自宅メイン・たまに スタジオで試奏という感じなのであえて大出力は狙わず、3極管接続で20W以下を 目標としました。また、スイッチでウルトラリニア接続と3極管接続を変更できるように します。そして、出力管の違いを検討できるように6550/6CA7/6L6GCを 差し替えられるようにする予定です。

エレキギター用真空管アンプといえば、肝はやはり歪みですね。 パワー管をオーバードライブして歪ませるために、ドライブ段のゲインは大きめに 設定します。ドライブ段には3極管・5極管の複合管6BL8を用います。 6BL8は元はテレビ用の真空管みたいですが、手ごろに出回っているのと、 3極管部の内部抵抗が7kΩ程度で割りに低く、パワードライブに最適です。 3極管部でパワードライブを行い、5極管にて位相反転回路を形成しようと思います。

リバーブをつけたかったのですが、自作エフェクターでも十分代用できると考え、 初心者の初挑戦なので欲張らずに今回は見合わせました。

初段のトーン・ボリューム回路はFenderのアンプを真似て12AX7にて構成しました。 この点では冒険は避けました。

以上が今回のアンプのコンセプトとなります。

最初の回路図はこちら

シャーシ

シャーシは鈴蘭堂のSL-300GRという少し小さめの物を選定しました。 グレーハンマートーンでなかなか渋い一品です。日本橋のテクニカルサンヨーさんにて 購入いたしました。

テクニカルサンヨーさんはこちら

トランス類

アンプの主役は真空管ですが、このトランスもアンプの音質を決める上で なかなか重要な位置を占めていると思います。今回はTANGOのトランスにて グレーハンマートーンで統一してみました。

電源部分のパワートランスは、TANGOのME-205を選定しました。 KT88ヒータ用に6.3V/2Aの端子が二つあり、さらに電圧増幅管ヒータ用に別に6.3V/2Aを 使用できます。5V端子にて整流管を使用でき、メイン電源用に320V両波整流にて 360V/200mAを出力可能です。

チョークコイルには、TANGOのEC-5H-250Sを選定。 200mAの電流を流せるように余裕を持って設計したかったので、これを選定しました。

出力トランスには、余裕を持って設計したかったので40W品のU-405を選定。 5kΩの一時側インピーダンスで、スクリーングリッド用端子が出ているため、 ウルトラリニア接続にも対応できます。

トランス類は、日本橋の東京真空管商会さんにて購入しました。感謝感謝!!

真空管

今回の花形真空管です。中央がKT88、小さいのが6BL8と12AX7、一番右にあるのが 整流管5AR4になります。これが赤熱するのが早く見たいです!! 東京真空管商会さんにて購入。それにしてもこのお店の真空管の品揃えはものすごいです。 皆さんも一度足を踏み入れてはいかがでしょうか?

コンデンサ

真空管アンプでは、400V程度の高い電圧がかかりますので、エフェクターの時と違い コンデンサ容量と耐圧も意識して選定する必要があります。 回路選定時に電圧を計算しておき、その電圧以上のものを選びます。

電解コンデンサーは、電源ラインのリップル除去用と思われがちですが、 信号が通過するものですので、SPRAGUEのものを選定してみました。

抵抗

こちらもエフェクターの時とは違い、発熱を意識して選ぶ必要があります。 パワー管周りはもちろんですが、電圧増幅部分も高い電圧により意外と発熱します。 今回は発熱を考え、メインに酸化金属皮膜抵抗を選定しました。

機構部品

電源スイッチ、ヒューズ、パイロットランプ等の機構部品です。電圧、電流を 気にしながら選定します。

ラグ版

抵抗・コンデンサ等の部品を載せるラグ版です。真空管ソケット上に部品を レイアウトしても良いのですが、ラグ版を使うと配線が分かりやすくなると思います。

真空管ソケット

真空管は、MT9ピンとGT管用のUS8ピンのものを用意しました。シールドケースは、 今回は使用しません。

ボリューム・つまみ

ボリュームはCOSMOS製の可変抵抗、つまみは真鍮製を選択。

ワイヤ

シールドワイヤは、入力部分に使用します。また、スピーカケーブルはBELDEN製を 使用する予定です。

部品の寸法からシャーシの加工を設計

部品を選択したら、各部品の寸法を測定し加工図面を起こします。それに沿って、 シャーシにサインペンで寸法を記入し、ドリルで加工します。

シャーシの加工後

加工図面に沿って、ドリルで加工しました。ですが、この作業は大変です!! ハンドドリルで加工をしましたが、ハンドドリルから煙が出るのでは?と思われるほど がんばってくれました。電源トランス部分の四角い加工はドリルで細かい穴を開けながら 行いました。


KT88真空管アンプ作成その2(2006/10/15)

前回はシャーシの加工まででしたが、いよいよ部品取り付け、配線を行っていきます。 初挑戦なのでまだまだ至らないところばかりですが、写真つきで解説していきます。

部品の取り付け

トランス・ラグ板・真空管ソケット・その他機構部品をシャーシに取り付けます。 トランスは結構重いので、慎重に作業しました。ラグ板の配置は、回路図から ある程度CRの配置を考えておかないと、配線しにくくなります。

拡大図はこちら

電源周りの配線

最初に電源周りの配線を行いました。交流部分は白線にてツイストにします。 高い電圧が発生するので、一本一本の配線を注意しながら半田付けしていきます。 整流後の高電圧がかかる配線は、赤線を使用しました。 パイロットランプは、6.3V/250mAのものを使用しています。

電源配線が終わった後、とりあえずAC100Vを入れて無負荷時のB電圧を測定してみると、 450Vで文献に載っている5AR4の320V両波整流時とほぼ等しくなりました。 とりあえずB電圧系統は間違っていないようです。

拡大図はこちら

ヒーター配線

次に、ヒーター配線を行います。ここも交流にて生成しますので、白線の ツイストとしました。出力管のKT88は、一本で6.3V/1.6A消費しますので、 一本ごとに独立配線とし、電圧増幅管・パイロットランプをひとまとめにします。 交流電圧でハムが出るのが嫌なので、シャーシの外側を這わせるように配線します。

出力管まわり拡大図はこちら

ヒーター配線がひとまず終わったところで、真空管はつながずに ヒーター電圧を測定してみました。結果、6.6V。6.3Vより少し高めに出るようです。

電圧増幅部まわり拡大図はこちら

全体は下のような感じになります。

ヒーター全体拡大図はこちら

出力管周りの配線

出力管周りの配線では、出力管と出力トランスを接続します。 ただし、スクリーングリッドにはスイッチが入りますので、 一度シャーシの前面パネル側に配線が伸びます。今から考えると、 3極管接続・ウルトラリニア接続の切り替えスイッチは、背面側にセットした方が 良かったと思います。

拡大図はこちら

電圧増幅管周りの配線

電圧増幅部・位相反転部は、インピーダンスが高めになるので、 あえてツイスト等にはせず、すっと短めに配線しました。 ラグ板上のCRの部品配置はあらかじめ考慮してあり、 それに従って配線します。

拡大図はこちら

CR部品配置

最後にCR部品を配置していきます。CRの部品数は、ディストーションペダルを 一台作成するのとそんなに変わりません。ですが、真空管アンプは発熱するので、 一つ一つの部品が大きいですね。

ひとまず12AX7側の配線は行わず、6BL8部分を直接入力部分に配線して、 後段部分が正常に動作するか確認します。

拡大図はこちら

電圧チェックしてみたが…

ここまで配線が終わったら、真空管をさす前に、 各CR部品の電圧をチェックしておきます。問題なさそうであれば、 いよいよ真空管をさして、電圧チェックです。

ヒーターが点火して行き、ほのかに赤熱し始める時は、ちょっと興奮します。 なんともいえない温かみがありますね。しばしうっとり・・・

最初に、出力管のプレート・スクリーングリッド・グリッド・カソードの 各バイアス電圧を測定します。今回は、出力管をAB級で動作させるため、 アイドリング電流を約80mA流す自己バイアス方式としています。カソードに発生する 電圧は40Vですが、実測では、36V程度でまあまあといったところ。

プレート電圧は、370V程度で、思ったよりも高めです。B電圧も高めに出ているため、 意外に5AR4はがんばりますね。B電圧が高いために、電圧増幅部分のB電圧も 20V程度高めに出ています。

さてさて、出力段付近は問題なし。電圧増幅部はと電圧を見てみると、 プッシュプル三極部で結構電圧が違います。一方は160V、片方は305V。 片方はカットオフしていますね。グリッド電圧が90Vと55Vで、カソード電圧が98V となっていました。

増幅段のばらつき

今回6BL8の五極部は電圧増幅兼位相反転としていましたが、五極管の特徴を 生かそうと増幅度の高い位相反転を行っており、従って五極管のわずかなばらつきでも プレート側では結構なばらつきとして見えてしまい、三極管の一方がカットオフ してしまいました。

かといって、6BL8など新品のペア間などはなく、今あるものを使用したいので、 回路の修正が必要です。文献によると、一つはマイナス電圧を用いた差動回路、 二つ目は定電流ダイオードを用いた全差動回路が解決にはよさそうですが、 せっかくの五極管の特徴が失われてしまうため、躊躇します。

そこで、三日間悩んだ結果、バイアス点の安定を強制的にするため、 五極管部・三極管部を通じた部分帰還回路を導入してみようと考えました。

スクリーングリッドバランス回路を導入

五極管部のスクリーングリッドは、B電圧から抵抗を通して100V程度のDC電圧に しようと考えていましたが、電圧増幅管左右のばらつきが大きく、このままでは、 位相反転がうまく行えません。

左右のバランスをとるために何かを犠牲にしなければなりませんが、これを 今回スクリーングリッドで行おうと考えました。スクリーングリッドは、グリッドに 比べれば増幅度は低いですが、スクリーングリッドからも電圧増幅を行うことは 可能です。三極管部の左右のバランスをとる代わりに、スクリーングリッドの バイアス電圧に調整がかかり、左右違う電圧となります。

ただし、バランスするのはDC電圧のみでよく、AC信号は部分帰還が帰らないように 五極管左右のスクリーングリッド同士を0.1uFでカップリングします。 こうすることで、スクリーングリッドにはAC信号成分が発生しなくなり、 増幅度を落とさずにすみます。

この修正により、三極管左右のプレート電圧は、160Vと200Vになり、 バイアス点に入ってきました。6BL8をもう少し選定すれば、数V程度のばらつきまで 落とし込めると思います。

SGバランス回路はこちら

音が出ない・・・

電圧測定も終了し、いよいよ音だしです。スイッチを入れ、ヒーターの点火を しばし眺め、ギターを接続し、Eコードをジャラーン!!うーん、音が出ない・・・

初挑戦だったため、半分は予想していましたが、やはりか!ここまでやったのに。 という喪失感がありましたが、気を持ち直し、解析です。

出力管の交換。結果同じ。バイアス電圧までは正しく出ているので、 真空管以降か?出力トランスorスピーカ配線orスピーカ・・・スピーカはFender SVD-20 のものを使用しているから、不良ということはないはず。自作したベルデンケーブルの スピーカケーブルか?ケーブル太すぎて無理矢理ジャックに押し込んだためにショート? ジャックを空けたまま接続してみると・・・

出たあー!!出ました、ボリュームフルにしてたので、心臓が止まるかと思いました!! 感動です!!

最終回路図はこちら

KT88ウルトラリニアアンプ完成!!

山あり谷ありでしたが、音が出ました。トーンコントロール部分を配線し、 完成です。初心者の初挑戦で、しかもオリジナル回路を用いることもでき、 なかなか満足の結果です。気になるサウンドは・・・とてもクリアです。 ギター本来の音がそのまま増幅されている感じで、しかも余裕を感じます。

拡大図1はこちら

これは、出力トランスに大きいサイズのものを選定したことと、 やはり40W級の出力管を用いているからでしょうか?デラリバよりも低音のガリッと感が 違いますね。

拡大図2はこちら
背面はこちら
サンプルサウンド1はこちら
サンプルサウンド2はこちら
サンプルサウンド3はこちら

EL34ウルトラリニアアンプに変更

スヴェトラーナ製のEL34を秋葉原のクラシックコンポーネンツさんにて 入手できましたので、交換してみました。電圧が予想よりも高く出ているため、 プレート損失が上昇しており、KT88では問題ないですが、それよりプレート損失が 小さいものに交換しますとプレート温度が異常に上昇する危険性があります。

拡大図1はこちら

そのため、電源部分を見直し、320Vタップから整流していたものを 280Vに変更しました。B電圧は、チョークコイル後で330V程度になりました。 元々ワット数を競う目的では作っていませんので、これでも十分です。

音の感想は、洗練された!という感じでしょうか?KT88の余裕よりも 幾分かまろやかな感じとなり、コードを鳴らしたときの共鳴感は最高です。

拡大図2はこちら
サンプルサウンド1はこちら
サンプルサウンド2はこちら
サンプルサウンド3はこちら

前に買っていた6F6GTに交換

シルバニアの6F6GTを前に購入し、懐で温めていましたので、 これに交換してみました。整流感もGT感なので、見ため的には、 まとまった感じですね。

拡大図1はこちら

サウンドは、KT88の時の余裕が失われ、 並になったかな?というのが、第一印象です。ですが、これもギターとの愛称が あると思います。大型出力間とはまた違った、小ぶりな中にもしゃきっと感のある サウンドが印象的です。

拡大図2はこちら
サンプルサウンド1はこちら
サンプルサウンド2はこちら

ついでに、デラリバに搭載されていた6V6GTも歪ませてサンプルサウンドを 録音してみました。低音のガリッと感が病み付きです。

サンプルサウンド1はこちら サンプルサウンド2はこちら

まとめ

初挑戦で真空管アンプに挑戦しましたが、 初物にしてはなかなかうまくいったと思います。自分でパーツから選定し、 配線材も単線を使用しましたので、市販品とは一味違います。

このベース回路をいろいろいじくって、アンプ回路の実験を進めて行きたいと 思います。

自作アンプの改造(2006/10/22)

電圧増幅部の実験として、五極三極複合管6BL8一本で構成できるPK分割回路に 変更してみました。果たして、音質的に変わりがあるのでしょうか?

回路図の変更

文献から五極管を用いた電圧増幅・位相反転回路を転用し、実機調整して 仕上げます。6BL8は一本必要なくなります。PK分割回路は電圧振幅が取れなく、 またゲインも1以下となりますので、前段にて電圧増幅を行います。 五極管は電圧ゲインが高いので、PK分割回路の前段には最適です。

変更後の回路はこちら

部品を変更して完成

KT88のアンプから部品を減らす方向で修正していきます。なので、特に 難しいところもありません。MT9ピンソケットが一つあまります。

拡大写真はこちら

スクリーングリッド電圧の調整

同じ回路で同じ真空管を用いても、スクリーングリッドのばらつきが 大きく、プレート電圧が結構ばらつきます。なので、スクリーングリッドに 挿入する抵抗値は球ごとに調整が必要と思います。今回は、470kΩで最適と なりました。

スクリーングリッド電圧の調整は、オートバランス回路を検討していく 必要を感じました。

コンデンサを変更してみる

コンデンサをお気に入りのMallory150sからASCに変更してみました。 ASCのコンデンサをエフェクターで試した時は、太くまろやかな印象を受けましたが、 真空管アンプではASCのコンデンサは有名らしく、一度試してみました。

サウンド試聴

出来上がったEL34ウルトラリニアアンプ/PK分割回路バージョンを試奏して みました。MFDを使用したディストーションサウンドは癖になりそうな ぶりぶり感です。録音した感じでは、前回のKT88アンプよりぶりぶり感が 増したような気がします。

クリーントーンはほぼ同等で見分けがつきませんでした。 以上より、僕の結果では真空管を一本で構成できるPK分割回路が 最適と思います。

ストラトMFDサウンド1はこちら
ストラトMFDサウンド2はこちら
ストラトMFDサウンド3はこちら
FirebirdMFDサウンド1はこちら
FirebirdMFDサウンド2はこちら
FlyingVMFDサウンドはこちら
ストラトクリーンサウンド1はこちら
ストラトクリーンサウンド2はこちら

6L6GCアンプを試聴(2006/11/4)

ギターアンプとしてあまりにも有名な6L6GCを使用したアンプにしてみました。 茶色ベースのスヴェトラーナ製6L6GCを使用し、前回までの6BL8複合管の位相反転を そのまま流用しました。整流管は5AR4です。

さて、各社さまざまなギターアンプに採用されてきた6L6GCの気になるサウンドは? 今までのパワー管よりも艶があるな!!というのが、第一印象です。 音を止めたときに残るわずかな残響音の響きに違いを感じました。きらっと残る 残響感は、ストラトサウンドに最適だと思います。

ストラトサウンド1はこちら
ストラトサウンド2はこちら

続いて、MonkeyFATDriveを接続し、ディストーションとさせてみました。 KT88、EL34とほぼ同等なガリガリディストーションサウンドとなりました。 ドライブ感が気持ちいいです。6L6はファンが多いと雑誌で見ましたが、 なかなか捨てがたいものを持っています。

ストラトサウンドMFD1はこちら
ストラトサウンドMFD2はこちら

まとめ

KT88/EL34/6F6GT/6L6GCとパワー管をいろいろ変えて引き比べてみました。 以下に今回の実験で感じた違いをまとめて見ます。

いろいろ試してみましたが、結構違いがあり、当初はそんなに違いがないのでは? と思っていたので、結構新鮮な発見がありました。また、6BL8の電圧増幅+位相反転は PK分割回路がベストのようです。ただし、5極管のスクリーングリッドに対して、 プレートの反応が思ったよりも敏感で、調整が必要でした。 これに関しては、自動バランス回路を検討するか、ブリーダ電流を多く流し、 スクリーングリッド電流の影響を受けずに電圧設定できるよう抵抗を小さくするかの 対策が必要と思います。


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